日本再発見ノート Rediscover Japan. 

株式会社さとゆめ・嶋田俊平の日々の思い、出会い、発見

「新版コミュニティ・ソリューション −ボランタリーな問題解決に向けて−」


写真は、今日、高松港で撮った瀬戸内海。東京はここ数日雨が続いていたが、高松はかんかんに晴れていた

さて、「コミュニティのちから」(書評はこちら)に続き、金子郁容氏の「新版コミュニティ・ソリューション」を読了。

あとがきにこう書かれている。

社会を見回すと、これまでの政府や企業のやり方だけではどうにもうまくいかない問題がわんさとあることに気付く。公的サービスがうまくいかないといって、では全部を民営化したらいいかというと、話はそう簡単ではない。その中で、そのような問題の少なくとも一部を、魅力的なプロセスを作りながらきちんと解決しているボランタリーなコミュニティがそこここに見受けられる。その底流には、時代の変化の大きなうねりがある。それにコミュニティ・ソリューションという名をつけて、ストーリー性を付与して記述できないか、ということでできたのが本書の初版である。一九九九年の春のことであった。

「魅力的なプロセスを作りながらきちんと解決」。

僕がこれまでも、これからもやろうとしていること、やっていきたいことは、まさにこれ。(フィールドは、農山村を中心に。)

巷では相も変わらず、「大きな政府か、小さな政府か」といった議論がされているが、いまいちぴんとこない。

なんでもかんでも政府主導でやって、できないところを「新たな公」とか言って地域の民間主体に押しつける、そんな時代ではないだろう。

政府がやれることなんてそんなに大きくないと僕は思っている。

目指すべきは、地域が主体的に「あるべき姿」を決め、地域の住民も行政も対等な関係の元、「魅力的なプロセスを作りながらきちんと解決」する。どうしても地域で解決できない部分を政府が補う。

正しい順番は、これだろう。

だけど、「魅力的なプロセスを作りながらきちんと解決」することは、間違いなく、とても難しい。僕もこれまでいくつかのNPOの立ち上げや運営に関わったり、キャンペーンを仕掛けてきた中で身を持って感じている。

でも逃げてはいけない。「魅力的なプロセスを作りながらきちんと解決」すること、つまりコミュニティ・ソリューションがこれから益々重要になってくるからこそ、そのソリューションを導くための方策、ノウハウ、成功事例・失敗事例を、しっかりと自分としても、社会としても蓄積していかないといけないのだ。

金子氏はそのソリューションの鍵として、「ルール」「ロール」「ツール」を挙げ、沢山の実践事例を元に、現場に役にたつ知見を提供してくれていることは、先のエントリーで述べた通り。

「コミュニティのちから〜“遠慮がちな”ソーシャル・キャピタルの発見」(今村晴彦,園田紫乃,金子郁容) - 日本再発見ノート Rediscover Japan.

本書で特に面白いと思ったのは、「弱さの強さ」という視点。

スタンフォード大学Ph.Dを持っておられたり、ウィスコンシン大学で計算機学科の先生をしていたりという経歴を持ちつつ、今はNPOの組織論や地域形成における意志決定プロセスなどを研究されている方ならではの視点。

コンピュータのフリーソフト/オープンソースのソフトウェア「リナックス」を例に取り、以下のように書いている。

情報を開示すると、いろいろな意味で弱い立場に立たされるというのが一般の認識である。これまでの常識は、情報を隠すことで強さが生まれるということであった。ネットワーク社会では、それが変わってきた。
(中略)
リナックスの開発プロセスでは、プログラムのソースコードを含めてどんな情報も開示する。そればかりではなく、公開されたプログラムを誰がどのように変更しても自由である。そのようにして情報をオープンにすることで、かえって、コミュニティは強さを獲得しているのである。
ボランティア、ないし、ボランタリーな行為一般について、自分から進んで情報を提供したり行動したりすることは、必然的に弱さを発生させるのであるが、その弱さが実は本質的な意味で強さになっている。
(中略)
リナックスは、まさに、そのオープン性によって、弱さの強さを発揮させているのである。

これは、まさにITのみならず、地域社会で何か事を成すときに、基本的なスタンスとすべきことだと思う。
一方で、これが簡単でないこともきちんと理解しないといけない。リナックスのコミュニティは、リーナス・トーヴァルズという「公正で、妥当な判断をもった」「謙虚で、他の人をよく受け入れ、善し悪しの判断に優れた」コミュニティ・マネージャーがいることや、GPL(General Public License)と呼ばれるライセンスに基づく絶妙のルールが自主的に共有されていることなどなど、沢山の条件や努力が揃って初めて、「長期的信頼性」を持ったソフトウェアであり続けられているのである。

「弱さの強さ」。これをどう自分が関わる地域でマネジメント、創造していけるか。

とても難しい課題であり、また、とても胸の躍るチャレンジである。