土佐源氏
一昨日調査で訪れた高知県檮原町。調査後、役場のAさんと飲んでいたとき、宮本常一の話が出たので驚いた。
「宮本常一は、ここで何書いたと思うよ。土佐源氏ちゅう、艶っぽい色恋話を書いたんよ。」とうれしそうに話された。
宮本常一の代表作「土佐源氏」の舞台が、土佐・四万十川の源流に位置するこの檮原町(当時は檮原村)なのだと。
宮本常一は、昭和30年頃、檮原村の橋下の粗末な小屋に住む盲目の老人から、その一生について聞き取り、老人の語り言葉そのままに書きしるした。
夜這いの子としての少年時代、馬喰(牛の仲買)としての綱渡りの生活、様々な女性との遍歴、(数々の悪事がたたったのか)盲目になり、最後は散々粗末に扱ってきた妻の元に戻ったこと。そんなことが生々しく、そして生き生きと書かれている。
「忘れられた日本人」に収められた話の中で一番印象に残っていたが、まさかここの話だったとは。
「人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大切なものがあるはずだ。」
宮本常一は、父から授かったこの言葉に従って、日本中の農山漁村を歩き、まさに通常の文学や学問書などに登場し得ない人々の生き様を書き続けた。
Aさんは、そんな生き方をした宮本常一が、自分が生まれ育った梼原をかつて訪れ、人々の生身の姿を書き残したという事実に、誇りと喜びを感じられているようだった。
今、宮本常一が訪れたこの町は、Aさんを含めた役場の方や森林組合の先進的な取組で、大きな注目を集めている。
宮本常一も、もし今の梼原を見たらきっと目を細めて喜ぶだろう。
- 作者: 宮本常一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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