筑波山
京都から関東に引っ越してきて、一番変わったことは、山が遠くなったこと。
6年間過ごした京都では、大文字山の麓にある、その名もずばり「大文字ハイツ」という月2万円の安下宿に住んでいて、週3回は大文字山に登っていた。料理に使う水やお茶をいれる水は、ほぼ大文字の湧き水でまかなっていた。
それが今では関東平野のど真ん中。360度見回しても丘すら見えない。仕事で山村部に行くことは少なくないが、京都時代と比べると生活から潤いと楽しみがひとつ減ったことは確かである。
このことは、生まれてこの方、京都を出たことがなかった妻にとっては、さらに深刻な問題である。今まで「山はそこにあるもの」と思い込んでいたふしがあり、山が見えないことは「喪失感」に直結するからだ。
そんな我々にとって、せめてもの救いが筑波山である。阿武隈高地の南に続く八溝山地のさらに最南端に位置するこの山は、まるで千葉県民に手を差し伸べるかのように、関東平野にせり出しているのである。
この山は、ツクバネやツツジなどの植物も楽しめるが、なんと言っても頂上からの景色が最高である。360度見渡す限りの関東平野と、霞ヶ浦、日本海、天気が良い日には富士山までも眺めることができる。