日本再発見ノート Rediscover Japan. 

株式会社さとゆめ・嶋田俊平の日々の思い、出会い、発見

「地域再生の罠〜なぜ市民と地方は豊かになれないのか?〜」

地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書)

地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書)

地域再生に携わるものの一人として(「再生」という言葉があまり好きでなく、「地域づくり」を使っているが)、タイトルにどきっとして購入。

ただ、よくよく読んでみると、「地域再生」というよりは、中心市街地活性化やコンパクトシティ、商店街再生といったいわゆる都市計画の分野がメインとなっている。

都市計画系の大学教員やゼネコン、コンサル、ディベロッパーなどを「土建工学者」と括って、強烈にその「地域再生」のやり方を批判している。

市民の声を汲み取ろうともせず、次から次へと地方都市に箱モノを作っては、ニーズがないものだから余計に廃れさせている、経済価値だけしか見ていない、市民の暮らしの豊かさの本質が分かっていない、その癖、自分達が作ったものを「先進事例」などと自画自賛しては、「視察」や「事例集」づくりに余念がない等々。

宇都宮の109や、長野市のぱてぃお大門、松江市の天神町商店街などが、徹底的に叩かれている。そして、市民ニーズに合わない箱モノや器はいらない、ソフトが重要だ、等々と持論を展開している。

これは、都市計画やゼネコンなどの仕事をしている人がこの本を読んだら、耳が痛いを通り越して、腹が立つだろう。

一方で、自分のように良くも悪くも箱モノを作ったことがない人間からすると、ふんふん、市民ニーズからの出発とかソフトが大事とか、そんなの当たり前だろ、(この人はなんでそんなに攻撃的なんだろう)と、半ば不思議に思いながら読み進むことになるだろう。

ただ、最後のほうで、著者自身のエピソードが出てきて、あ〜なるほど、と思った。著者のトラウマとも言うべきモチベーションの源泉が垣間見えた。

幾つかのエピソードが紹介されているが、そのうちの一つを転載させて頂く。

著者がIBMのコンサルタントをやっていた折に、義理母が広島駅前に経営する喫茶店「甘党たむら」のやり方に口を出したときのエピソード。

(義理母は)「顧客が1時間以上もいるのは顧客回転率が悪く、値上げが必要」という私の提案には自信をもって次のように反論した。
「それは、なんとか回転率が悪いのではなく、顧客が居心地よくて幸せを感じている。幸せを感じてくれるから、後に何度も来てくれるし、知人も連れて来てくれる」
(中略)
「甘党たむら」は60年にわたり顧客から愛された。義理母はそれを支えた。このような店と顧客の間にある「愛や支持」を、論理的に考える私には「感じとる」ことができなかった。なぜなら、私は「私益」はかりに目が向いていた。己の愚かさに心が痛んだ。
もし、愚かな私の提案通りの適正販売価格に、すなわち他店舗並みに大幅な値上げをしていたならば、甘党たむらは全国の駅前商店街の他店舗と同じように衰退していただろう。
(本書P201)

これには、私もどきっとした。

人の暮らし、価値観に立ち入らざるを得ない仕事をしている人間として、本当に本当にこういうことは注意が必要だ。

このエピソードだけでも、この本を読んで良かったと思った。